2009年10月24日土曜日

天井桟敷より〜オケ週間 1〜






この2日間、テアートル デ シャンゼリゼにて

クリストフ フォン ドホナーニ指揮 フィルハーモニア オーケストラ(イギリス)を聴く

1日目はブラームスの交響曲1番、3番 2日目は2番、4番

昨日は自分の席を探して歩いていると...目の前に小さな老婦人が座っている

ピアニストのマダム コレヴァだった
ブルガリア人ピアニストで素晴らしいソリストだったが
事故の為に指を壊し...室内楽や教師として活躍してる

「こんばんは、お久しぶりです。ムッシュ レンギエルの弟子のミオです」と遠慮がちに
でも、久々に逢えて嬉しかったのでニコニコして挨拶をかわした

「あら、一緒に聴きましょう...!
あなたはまだ彼の元で勉強をしているの?何を今、勉強中?」と話に花が咲く

彼女は以前...私がピアノの試験でリストを弾いた時に喜んでくれ
または、翌年の試験でラフマニノフを弾いた時は残念がって...はっきりと助言をしてくれた方

その後、このオケの演奏について語ったが
ここで芸術論を語ることはしたくないので省くことにする

マダム コレヴァの着古したブルガリア風?のセーターが可愛らしくあった

天井桟敷からの眺めは素晴らしいもので
演奏を聴きながら目をつぶったり、天井に描かれている絵を眺めていた
マダム コレヴァが
「この絵はギリシア神話を描いたもので、あそこに竪琴を持ったオルフェウスがいるよ、」
などと教えてくれ楽しい時間を過ごす

アンコールなしで22時に終了
アンコールを期待していた近くにいたフランス人は
「フランスではこれからが盛り上がるのに、イギリス人は生活時間帯がこの国よりも
早いから、すぐに引き上げてしまうんだ」と皮肉を言っていた

しかし、今回の2日間のブラームス公演は
ドホナーニの80歳アニヴァーサリー記念であるし
彼の年齢を考えると素晴らしいものだと思う

背筋を伸ばし、キビキビした仕草、滑らかな旋律の魔術師

ようは80歳の男性が2時間続けて、立ちっ放してタクトを振る
そして、現代の指揮者ではスコア(オーケストラ譜)を見ながらする人が多い中
彼は1番から4番迄、全てスコア無しでタクトを持っていた

私は思う
あの遠くに見える彼の心、身体の中に....もう全てが入っているのだろう、と


音楽に限らず、だが
練習や思索、模索、は何百時間、何千時間と自分との戦いで
本番はたかが10分、1時間、2時間だ

ドホナーニとは比べ物にならないが
私は同じ音楽家からの視点から見て、ここまでに集大成で織り上げてゆく1からの過程を思うと
それだけで、本当に言葉にならない感動が溢れてきた

厳しいことを言えば
どうでもよい、つまらない、心が動かない...プロの演奏会もあり
自分だけ、自分たちだけで楽しんでいる人たちもいる
限りなく残念な時も、稀だがある


この2日間、
長らく忘れていた鳥肌を体験した

ドホナーニはハンガリー系ドイツ人で
ドイツ系音楽の現役指揮者の中でも重鎮的存在
父はユダヤ人支援のため、叔父もヒトラー暗殺を思案し2人とも収容所にて亡くなっている
祖父はハンガリーのピアニストだった


80歳のタクトを振る彼の背中をじっと見ていた
マエストロ、だと改めて確信する

アンコールの拍手や、ブラヴォーの叫びが鳴り止まない中
何度も何度も控えめに頭を下げてステージ袖に消えて行った音楽家

私は、あんまりに素晴らしい演奏に自分の魂が抜けてしまい
家に帰るとグッタリだった
これこそ、本望

そういえば、このヴァカンス中は
ピアノの師匠(86歳)も新しいCDのレコーディングのため籠って忙しくしている

ちょいと疲れた〜なぞと言う己は、まだまだな小さなご身分
また明日からやっていこうと思う


やはり3B(バッハ、ベートーヴェン、ブラームス)は好きだ

そして
ドホナーニの姿に音楽家は謙虚ではなくてはならない...

改めて
悔い改めを授かった