2012年9月11日火曜日

終わりは始まり

さようなら、シュミットさん

シュミットさんは100歳ちかい歳のお友達でした



同じピアノクラスの門下生で

いつもニコニコ、バッハをこよなく愛して弾いていた

彼の耳はほぼ聴こえないのに

鍵盤を彩る真摯な音姿は

何よりも美しいものでした




お若い時は外交官として

先に天国へ行かれた奥様はある有名なフランス大統領の妹様でした

まだシュミットさんの奥様が生きていらっしゃった時

ある演奏会後のパーティーで

「あなたの目の色、髪の色、勿論演奏もですが素敵ですね」と
声を掛けて下さりました

しかし私は「ありがとうございます」と言えば良いのに

自分を卑下した日本的な返事をしてしまった

その時彼女は私に対して

「何故、そのようなことを言うのですか?
本当に思うことを言っているのに
何故自分を認めないのですか?
私が嘘でも言うと思っているのですか」と怒らせてしまった


シュミットさんはそれをみて「おやおや」となだめてくれたのだが



その時、フランスで生きてゆくことは「こういう」ことだと
本当に確信した時だった

20代前半の頃...まだ何も何もわからない頃


お世辞抜きのこの世界


その後、人前で演奏をするたびに
良くも悪くも多くの反応を味わい、味わい

今、季節が過ぎて


ニコニコのシュミットさんも
秋風と共に旅立った



ピアノの師匠のレンギエル先生は
ディアボロ(ミント炭酸ジュース)を飲み
パイポの煙をくゆらせながら言った


「終わりは始まり....フランスの詩人の言葉を知っているか」




いつも心のページをめくる勇気を持ち

生き続けること


パリで出逢った優しい笑顔の人たちは
秋の鰯雲から
ずっとずっと、これからも見守ってくれるのだろう



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2009年11月30日付の日記「道の学校」
シュミットさんのことを書いております
ご興味のある方はお読み下さいませ