2009年6月20日土曜日

忘却


        忘却                  


君の唇はまるで閉じない朱い傷口のように
君の心臓はまるでチロチロ揺れる鬼火のように
時が過ぎて君は僕に手紙を書かなくなった
今でも目に見えるものよりも見えないものを、まだ、信じているかい

君の小さな乳房の間に宿る あの日の思い出
それはいつか星屑になって 独りの君を照らすよ

君の右目は情熱の紅い星 左目は悲しみの青い星
瞬きもせずに 今を見つめて
掌に入れることが出来なかったもの
手放さなくてはいけなかったものの 変わりに

風をつかみ 時には花を指にまとわせ
君は空の下 木にもたれて 生きることに泣いた

まだ 子供の頃の君は僕に手紙を送ってくれた
楽しい夢と いっぱいの色とりどりの風船を持って
空を歩く絵を描いていた
でも歳を重ね 君は僕に手紙を書かなくなった
楽しい夢は薄れ 風船は空高く飛んで行った
空を見ていた窓も....いつの日か閉じてしまった

僕は2000光年前からやって来ている光だよ 少しずつ青い星に近づいているよ
けれど君の人生を照らすには間に合わない

独りで生まれて 独りで死んでゆく人間は
僕が生まれた時に飛び散った母さん星のようだ

君はこれからどうやって生きてゆくんだい、
葉っぱの下で、この世の崖から美しい絶景を見渡してる
針の折れた蜜蜂がうずいて
まるで君のようだ

遠い闇の向こうからいつも君を見ているよ
いつか地球に辿り着く日
君は既にもういないけれど

僕は君が生まれた日の朝も
そして死んで行く日のことも知る事になるだろう
だから安心しておゆきよ

明日になれば君は出逢うだろう
種の日から君を待っていた花に

その小さな花を髪に飾って
君の乳房の間に宿る今と歩めよ

孤独に震える夜は
右手で自分抱きしめ、左手で涙ぬぐって生きてゆけばいい

今ここにある悲しみも喜びも
果てしなく遠い日になるのだから

虹色に描いては黒く塗りつぶした
君の心、わびしいこの世の歌
.....それでも

唇に昇るは命の讃歌
今、太陽が沈んでゆけば

一番星が強く君を照らすだろう
この世に生きた 在りし日、今の君を!