2010年9月3日金曜日

もう、答えは出ている






先日、シャガール終焉の地St-Paul村を尋ねた時、現地で心が向いた店があった
観光客も多いのにその店はひっそりしている
2度通りすがり、それでもやはり入ってみようと思った「何か」があった

南仏の民族衣装や少しのアンティークものを置いている静かな半地下の店
奥に少しお年を召したマダムが微笑みながら座っていた

何故かその空気が好きで、私も椅子に腰掛けて一緒に話しましょうとなった
自分が音楽家であること、パリから来たこと、オリジナルは日本人であること
そのようなことを踏まえてマダムは当時を想うように言った

「近所に住む親戚の娘がプロフェッショナルのオルガニストでね
それはもう、素晴らしい音楽家だったわ。
パリのノートルダム寺院でもオルガン演奏をしたのよ。でも若くして天国へ行ってしまった
本当に素敵な音楽家だったのよ。」
と少しはにかんで懐かしく話していた

私は...
「芸術を志して生きることは命を駆使することと共に....喜びと共に...
でも、生きて行くのは難しい、難しいです...」と答えた

その時、彼女は言った

「...でも?それでもあなたは音楽を続けて生きていきたいのでしょう」

「そうです」

「いくら難しくても、音楽を続けてゆくのが...あなたの夢なのでしょう?」

「そうです」

「そうよ、もう答えは出ているじゃない...それでいいのよ。自分でわかっているのだから」

そう言ってマダムは優しく微笑んだ


その後...シャガールのお墓と美術館に最後に行こうと思っていると告げると
私の義理の弟に車を出させてあげるから...遠いし、この炎天下の中では辛いでしょ...と
そんな心温まる手配をしてくれたのだ
見ず知らずの私なのに...

彼女はリリアンヌと言った
彼女の店で私は1920年のアールデコのコンパクト鏡を購入した
もう金で描かれたスズランが消えかかっていたが
リリアンヌのことを忘れたくなく想い出にと思った

帰り道...シャガールが描いた絵と同じ風景があった

風の音と眺めて
私の夏の旅が終わった